夜の大きな九頭竜川に月と鯔が包まれて…。
福井を代表する九頭竜川。その川の流れは竜のように大きく悠々としているが、大雨の時などは水量
が増し、恐怖さえ覚える。だが大抵は私達の生活と共にある川で、心を癒す自然の一つとして認識されている。そして歌の中に詠まれることも多いという。
「九頭竜川の水面に月が映っている。するとそこに鯔が飛び跳ねた。私が住む所はこんな美しい景色を見ることができるのだ」。病弱だった伊藤柏翠が鎌倉から疎開、療養を兼ねて三国に来たのは昭和20年のこと。鎌倉の療養所で知り合った森田愛子宅に同居し、三国の住人となったのだ。
坂井市三国町にある愛子の家は九頭竜川沿いにあり、日本海にゆっくり流れ込む川の様子を眺めることができる。そしてある日の夜、港町の賑わいが静まりつつある川が、今度は輝く月と遊泳を楽しむ鯔の群れによって、再び賑やかになるのを目にしたのだろう。
海に近い九頭竜川ではよく鯔が釣れるというが、福井の人間はあまり食べないという。それは鯔の臭いが食べる楽しみを喪失させるからだとか。でも月夜の川に飛び跳ねる鯔の姿は、誰の目にも美しさと楽しさを映し出してくれる。そして昼間とは違う九頭竜川を見せてくれるのだ。
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伊藤柏翠 (一九一一〜一九九九)
東京生まれ。本名は勇。昭和5年、鎌倉での療養中に俳句に目覚め、同10年高浜虚子に師事、同20年『ホトトギス』同人となる。また鎌倉療養中に森田愛子と知り合い、同20年の疎開の際、愛子の住む三国へ移住する。虚子の”花鳥諷詠“を基本に刊行された句誌『花鳥』の主宰でもあり、数多く自然の句を詠み続けた。句集である『虹』と著作『花鳥禅』があり、地域文化功労者の表彰も受けた。
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九頭竜川は生活用水の他に、米作り、酒造りに利用され、県内有数の鮎の好漁場でもある。(坂井市三国町) |
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