厳寒の冬に会いたくなる、蕎麦

雪に埋もれた蕎麦屋にやってきた。
こんな寒い日には、あれ、を食べたい。
そんな思いに突き動かれてやってきた。
それは「引き上げ湯葉と小かぶのあんかけそば」である。
やがて、青ネギと柚子胡椒の薬味を従え、薄茶色の温かい蕎麦が湯気をあげながら運ばれた。

汲み上げ湯葉が横たわり、水菜と炊かれたカブの薄切りが何枚も散らされている。
まずはつゆを一口。
とろりとした熱々のあんが、口に流れ込む。
ふうっ。
熱い温泉に浸かったように、凍えた体が緩んでいく。
そばを啜る。
この店のそばを冷たく食べると、クリッとしたコシとほのかな草の香り、噛んでいくと優しい甘みが滲んでくる。
だが温められているので、ねっちりとし、口の中でゆっくりと優しい甘みが立ち上がる。
そのおだやかな感じと、醤油味を効かせすぎない、淡いつゆの味が合う。
そこへ柔らかく炊かれたカブや、とろんと溶けていく湯葉が同調する。
あんかけだからいつまでも熱く、時折柚子胡椒を落として、変化をつけるのも良い。
あるいはわさびをもらって落とすのもいいだろう。
食べ終わると体は上気し、心もほかほかになっている。
やはり冬には欠かせないそばである。

もう一つ冬に欠かせないのは、鴨南蛮だろう。
しかし熱いつゆに冷たいそばを浸けて食べる、「鴨せいろ」を頼んだ。
追加で、おろしだしの「しぼり」も、注文した。
熱いつけ汁とそばが運ばれる。


つけ汁には、ネギと鴨ロースの薄切りが何枚も入っていた。
先ほどのつゆとは違う、黒茶色の濃いつけ汁には、鴨脂が溶け込んで、味わいが深い。
ここに冷たいそばをつけて、一気にたぐる。
つけ汁の、こっくりと濃い中に脂の甘みが溶けた味を楽しんだら、次におろしだしを浸ける。
甘い、辛い、甘い、辛い。
熱い、冷たい、熱い、冷たい。
こうして相反する味を、交互に食べ進めることが、楽しいのだな。
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。