今は希少な、古き良き誠実な洋食の味
「落ち着いて」。メニューを開いた瞬間に、頭の中で誰かが囁いた。
オムライスにヒレカツ、エビフライにグリルチキン、ビーフカレーに特製ポタージュ、エビクリームコロッケにビーフヒレステーキ。
洋食界のスター達がずらりと並んで、「食べて」と誘いかけてくるではないか。
しかも、「デミグラスソース、ベシャメルソース、マヨネーズ、ドレッシングなどすべて自家製です」という文言が、さらに食欲を煽る。
「全部食べたい」。
そう思う気持ちを堪えて、悩みに悩み、注文した。
まず「野菜サラダ」が登場する。

堂々たる盛りで、胡瓜やトマトもグッと冷えて、みずみずしい。
次にポタージュが運ばれた。

コーンポタージュである。
生クリームが流されたそれは、とうもろこしの甘みが穏やかに舌に流れ、丁寧な仕事を感じさせる。
そして「イタリアンスパゲッティ」が運ばれた。

いわゆるナポリタンなのだが、ケチャップケチャップしていない。
ケチャップをよく加熱してあり、味わいがまろやかな、上品なナポリタンである。
次はビーフカレーが運ばれた。

これまたご飯もルーも、他店では大盛りの量である。
迫力のあるお姿とは異なり、味わいに品を感じた。
薄っぺらの辛さに逃げていない、うまみのあるルーである。
続いて人気一番という「Aセット」が運ばれた。

エビフライ、デミグラスにまみれた牛ヒレステーキ、ヒレカツにポテトサラダとサラダのセットである(1950円)。
エビフライは特大で、噛めばほろっと甘く、ヒレカツもステーキも肉の味がいい。
そしてデミグラスが気に入った。
甘さ、苦味、塩気のバランス良く、味わいは深いが丸い。
かつて洋食が、この上ないご馳走だった時代の、丁寧な仕事が生きたソースである。
デミグラスの味に酔っていると、「大人のお子様ランチ」が運ばれた。


皿の上は壮観、オムライス、アメリカンドッグ、ミートボール、エビフライ、海老クリームコロッケ、春巻、唐揚げに、ハムとポテトサラダ、サラダと、もはやテーマパークである。
さあどれから食べようかと、悩む嬉しさがある。
それぞれが誠実な味わいで、それをオムライスで受け止めた。
食べ終えると、伊藤博行オーナーシェフが挨拶に来られた。
創業60数年という店の仕事を、守り続けられてきた方である。
御年83歳になられるという。
「仲間からまだそんな昔の仕事をしてるのかと言われるように、毎朝デミグラスを作って、漉しています」と、笑われた。
あらためて、古き良き、手間暇をかけた仕事と、それを頑なに守り続ける、職人の心意気に出会った。


(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。