希少なとんかつ屋で、ソースかつ丼の神髄を味わった
福井県に純粋なとんかつ屋が少ないのは、ソースかつ丼がとんかつより市民権を得ているからに、違いない。
実際食べログで調べてみると、純粋なとんかつ屋は、県内12軒である。
しかしここ「一新亭」は、かつ丼はあるものの、歴としたとんかつ屋である。
品書きを見ると、良き肉を良き衣で揚げようという、強い意志が感じ取れた。

そんな店のかつ丼は、さらにソースかつ丼の世界を上げてくれるのではないか。
そんな期待を胸に店に入った。
昼時は満席で、活気あふれる店内では、とんかつとかつ丼の率は、半々くらいである。
頼んだのは、「とじない上かつ丼」1470円だった。
味は、醤油かソースを選べるので、ソースを選ぶ。
やがてお馴染みの蓋を上に開けたスタイルで運ばれた。


丼の全面には、ソースにまみれたとんかつが占めている。
その光景は他と変わらない。
だが、かつが厚い。
しかもかつの下に隠れて、とろりと加熱された溶き卵がご飯を覆っている。


これこそが「閉じない」と明記した料理名の所以なのであった。
だが、ソースと半熟卵は合うのか?
醤油にした方が良かったのではないか?
そう、不安になった。
まずかつを一口。
おお、肉がいい。
妙に柔らかすぎることなく、噛み締めがいがあり、肉汁も脂の甘みもあって、とんかつを食べたぞという充足感がある。
そしてソースがおいしい。
甘すぎず辛すぎず、それでいて食欲をちくっと刺激するうまさがある。
猛然とかきこませてしまう力がある。
そして、その優しさゆえに、卵とも合うのであった。
丼を一気呵成に食べ終えたら、ラーメンが運ばれた。


そう、ここのもう一つの名物が「中華そば」で、若主人が出したくてメニューに載せたのだという。
細いストレート麺に、醤油味のスープ、具はシナチクにネギ、チャーシューに海苔という、オーソドックスな醤油ラーメンである。
スープは、親鳥と豚だろうか?
あっさりとした優しい、昭和の匂いがするラーメンで、そのスープをからめながら、細い麺が口に吸い込まれていく。
穏やかな味わいなので、かつ丼と中華蕎麦の両方いけるだろう。
店は、ご家族でやられているようで、その温かみのある空気感が、かつ丼とラーメンを、一層おいしくさせるのだった。

(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。