県内唯一。塩だしのおろしそばの実力
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「やってます」。
雪の中に佇む一軒家「一福」は、入口のその看板で迎えてくれた。


店内は民家風の内装で、畳張りの小上がりには古い箪笥が置かれている。
まるで親戚の田舎の家に来たような気分になる。

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潔い。
おろしそば、かけそば、かけうどん、とろろそば。以上である。
まずは基本のおろしそばをいただこう。

店のウリは塩だしのおろしそばで、福井県では珍しい。
聞くところによると、塩だしのそばを提供しているのは「一福」だけだという。
透き通った淡い琥珀色のつゆに浸かった中太のそばの上には、大根おろし、鰹節、ネギがのっている。
ずるる──。
そばを勢いよく手繰り、30回ほど噛むと、ほんのりとした甘さを広げながら喉に消えていった。
普通のそばは20回程度だから、相当にコシが強い。
つゆはうっすらとした甘みを感じる。
三代伝承の塩だしは、能登の塩など複数の塩を混ぜており、出汁に潜む甘さを引き立てているのだろう。
大根とネギはみずみずしく、聞けば自家栽培しているそうだ。
次にとろろそばが運ばれた。

これもいい。
とろろ芋の優しい甘みが、つゆの甘みとよく合う。
さらに、かけそばもお願いした。

温かいかけそばのつゆは、塩がやや強く感じられた。
しょっぱいのではない。
厳選された塩の根性──海のしぶきの中を、そばがすり抜けていく。
それは、海と里がつながった、ひとときの幸福だった。

(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。