山奥の香りに抱かれる喫茶店

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福井市から車で40分、池田町にやってきた。
岐阜に近い山奥である。
さあ、山の恵みを食べるぞ。

そう意気込む私が連れてこられたのは、一軒の喫茶店であった。

他に民家もない池田町の入り口に、ぽつねんと建っている。

店内も、いたって普通の喫茶店だ。

しかし、壁にはり出されたメニューには、トーストやサンドイッチなどに並んで、なんと「猪」や「鹿」の文字が並んでいるではないか。
全国広しといえども、猪肉料理を出す喫茶店は聞いたことがない。

早速、「猪(しし)ちゃんうどん」をいただく。

湯気を立てて運ばれてきたうどんのつゆをひと口。
味わいが穏やかで、寒さにしびれた体を温めてくれる。
しめじと猪、ネギが入り、食べ進むうちに猪の脂がつゆに溶けていき、ぐんぐんと味わいが深まっていくのがたまらない。


続いて「猪(しし)どん」も運ばれた。

猪肉と玉ねぎ、しめじを甘辛く炒めたものが白飯の上に乗っている。
これまた味つけが優しい。
猪の味わいを殺すことなく、身に秘めたうまみや脂の甘みが広がり、ご飯を猛然とかき込ませる。
こりゃ豚丼よりいい。
味は優しいのに、食べ進むほどに興奮してくるのは、野生の肉を食べているせいか。


さらに「焼肉定食」も運ばれた。

これも猪の焼き肉である。
千切りキャベツの上に炒めた猪が乗せられ、大根とにんじんの塩漬け、紫蘇の実、すりごま、ブロッコリー、青菜の酒粕あえ、わかめのあえ物、きゃらぶき煮といった惣菜が添えられる。

肉を食べれば、街の焼肉のように味が過多でない。

塩と胡椒だけで味付けしているその潔さ。

おそらく猪本来の素の味を愛し、それを生かそうとしているのだろう。

肉がしっかりとしていてだれておらず、噛みしめがいがある。
そしてそれを受け止めるご飯がまた美味しい。
もっちりとして、穏やかな甘みがある。

優れた米どころとして知られる池田町のご飯が、池田町の猪を受け止める。
もうこれだけで、ここに来る理由がある。


最後は「鹿肉定食」である。

炙った鹿肉をポン酢と生姜でいただく。
鹿肉には凛々しい鉄分の滋味があり、心が勇壮になる。
これはご飯にも合うが、日本酒が飲みたくなる味だ。

この地で店を開いて、もう40年になるという。
女将さんによると、ご主人が別の仕事で池田町に来ていたが、すっかりこの土地の風土が気に入り、さらに喫茶店がなかったため始めたのだという。
店名は、さまざまな山の香りに包まれるようにとつけられた。

だが女将さんはこう言った。
「お父さん80歳なんで、いつまでできるかね」。

いつまでもとは言えないが、また山の香りを嗅ぎにやってきますね。

山奥の香りに抱かれる喫茶店
マッキー牧元
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。

お店の場所はこちら

喫茶 香

〒910-2503

福井県今立郡池田町谷口1−1

TEL: 0778-44-6952 

http://www.e-ikeda.jp/eat/p004003.html


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