最善の細やかな気配りが施された料理が届ける、穏やかな時間
その店は、郊外にひっそりと佇んでいた。


扉を開けると、マダムが柔和な笑顔で迎え入れてくれる。厨房では、シェフが一人で黙々と料理に向き合っている。
ゆったりと間隔を取って並ぶテーブルのひとつに腰掛け、シャンパンをお願いしてコースが始まった。
最初に運ばれてきたのは、楕円形の木製の細長い器に盛られたアミューズ。

ヘーゼルナッツのサブレにフォアグラとトリュフをのせたひと品は、口溶けが滑らかでエレガント。
菊芋チップスを添えた菊芋のポタージュは、どこまでも優しく、ゆっくりと喉を開かせてくれる。


パイに包まれたバイ貝のブルギニョンは香り高く、食欲を刺激する。


一皿目のオードブルは、「メジマグロの炙り ブロッコリーとクスクスのガトー」


軽く炙られたメジマグロは凛とした表情を見せ、旨みを湛えた海苔のソースがその味わいを引き立てる。
菜の花のソースが春の気配を漂わせ、クスクスと同じ大きさにほぐされたブロッコリーが心憎いアクセントとなる。
二皿目のオードブルは、「甘海老と人参のムース」


何よりも、優しい甘みと穏やかな福を感じさせる「ふくキャロット」のムースが本当に美味しい。
甘海老のねっとりとした食感とダブルコンソメジュレの深い旨みがフランス料理の優美さを生み出すが、出過ぎることなく、あくまで主役はにんじん。そんな品格のある料理だった。
三皿目のオードブルは、「フグ白子のコトレット マルセイユソース キノコのソースほうれん草とベビーマーシュ添え」
カリッと香ばしい衣を噛めば、とろんと白子の豊満な旨みが崩れゆく。
トマトと香味野菜の酸味を効かせたマルセイユソースが軽やかさを与え、モリーユ茸を添えたキノコのソースが香りをふくらませる。
途端に白ワインが恋しくなった。
四皿目のオードブルは、「能登牛舌のポシェ エシャロットバターソース アスピック添え」

精妙に火を入れられた牛舌の食感はなんとも艶やかで、噛むほどに穏やかな甘みが滲み出る。
内臓類を合わせたアスピックはコラーゲンの甘みがあり、交互に味わうことで互いを高め合う興奮があった。
魚料理は、「甘鯛のポワレと赤穂牡蠣 サフランソース玉ねぎとグレープフルーツのソース フランス産ホワイトアスパラガス添え」


この日の料理で、最も心を打ったのがこの皿だった。
小浜産の甘鯛が素晴らしい。
空気を含んだようにふんわりとした身、色香を放つ皮の香ばしさ、そして皮下の甘みが見事に引き出されている。
気品と力強さを併せ持つ、甘鯛の魅力が存分に表現されたひと皿。
肉料理は、「真鴨の炭火焼き ボルドレーズソース越前かんたけとタルティーボ添え」

鉄分を豊富に含む鴨肉を赤ワインのソースが盛り立てる堂々たる肉料理。
越前かんたけは福井特産の冬キノコで、平茸の仲間とのこと。エリンギとしめじの中間のような存在で、上品な風味がある。それが力強い鴨肉と好対照となり、素晴らしい相性だった。
デセールは、紅玉のアップルパイ、りんごのムースとピュレ、シナモンアイスとクランチを盛り合わせたひと皿。
特に紅玉の酸味を活かしたパイが素晴らしい。





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(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。