ロンドンから逆輸入された、ハイブリッドな寿司と北陸の魚との素晴らしき出会い

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人生71年、寿司屋歴20年になるが、こんな寿司屋は初めてだ。
石のカウンターにテーブルクロスがかかり、ゆったりとした英国風の花柄のチェアが配されている。
つまみや寿司が置かれるのは寿司板ではなくウェッジウッドの皿で、店内に流れる小さな音楽はハウス。
シェフは白いシャツにエプロン、ベースボールキャップという装いで握りを見せる。

最初は、この雰囲気にやや心配になった。
人間の味覚的嗜好は保守的である。
ましてや寿司という、日本人なら誰もが慣れ親しんだ料理を、こんな斬新な提供の仕方で理解してもらえるのだろうか。
東京ならまだしも、福井でこれを受け入れる人がいるのだろうか——。
だが、その余計な心配は、食べ進めるうちに期待へと変わっていった。

一皿目から心が氷解する。
ウェッジウッドの皿に入れられた、柚子をあしらった蛤の酒蒸しの潮汁は、澄んだ味わいで体に力を与えてくれる。

次は焼いた白子にタレッジョをかけ、塩を添えた一品。
クリーミーでほんのりクセのあるチーズが白子の色気を引き立てる。
松葉を敷いた盛り付けも美しい。
こんな組み合わせがあるとは想像もしなかった。

続いて「うにご飯と粉わかめ」。
濃密なウニに軽い磯香が寄り添い、女将さんが選んだ「飛鳥井」のしぼりたてが進む。

茶碗蒸しは「バイ貝と百合根の茶碗蒸し 白子 柚子あん」
ウェッジウッドの器にきりりと収まり、違和感なく端正な美が漂っている。

ここから握りが供される。
マイカはねっとりとした甘みを舌に灯し、バイ貝と梅肉、海苔を合わせた握りは、梅肉と合う海苔があってこそ成立する味わいだと納得させられる。

次はアジの握り。
醤油麹を塗っているというが、食べれば筋肉質なアジの旨さを、醤油麹のナッツのようなコクと熟成した旨味が深め、思わず唸る。
なぜ今まで誰もこんなことを考えつかなかったのだろう。

さらに驚かされたのは、二日間寝かせた甘エビとおぼろ昆布の握り。

殻付きのまま寝かせたのだろうか。
寝かせたというのに身は微塵もだれておらず、しっかりとした食感のまま、甘みが妖艶である。
その甘エビを昆布の品ある旨みが支えていて、たまらない。

次も驚きの握り。
シマアジにライム醤油。
酢飯を少し温かくして握り、ライムがシマアジの脂をすっと軽やかにする。
これも、なぜ今まで誰もやらなかったのかと思うほどだ。

ここで酒は早瀬浦の冷やし酒に変わる。

熟成7日目のマグロの赤身は酸が立ち、舌の上で潮が踊る。
塩胡椒だけの熟成11日目のカンパチは、なおいかっているような食感でありながら、色っぽい脂を流す。
包丁目を入れたイワシの炙りは凛々しく、塩麹とタスマニアマスタードを添えた大トロの炙りは、マスタードの酸味が大トロの脂に艶を与えている。

鰻の白焼きとレモンペーストは、柔らかくなったレモンの酸味がうなぎと酢飯をつなぎ、ウニとトロで握りは締めくくられる。

続いてなんと3種類のカッパ巻。
塩、レモン、梅が乗せられ、なぜ今まで醤油だけで食べていたのかと悔やむ味わいだ。

二月初旬ということで「恵方巻」も登場。

最後は塗りのお椀で供される鰻の出汁茶漬け。
甘味はウェッジウッドのティーカップに入った、自家製いちごのジェラート。

これだけ見れば、とても寿司屋とは思えない。

聞けば魚は、越前・福井の地物の神経締めを使っているという。
一部は熟成させるが、熟成の意味を深く理解し、食べ頃を見極める眼力がある。
寡黙なご主人だが、それぞれの魚の特質を生かした、誰もやっていない味の組み合わせに、寿司の未来を見た気がした。

また季節を変えて訪れたい。

ロンドンから逆輸入された、ハイブリッドな寿司と北陸の魚との素晴らしき出会い
マッキー牧元
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。

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