極めグジでフルコース。その上品な甘みに惚れるの巻
以前、小浜の魚市場で、目を見張ったことがある。
水揚げされた魚たちがずらりと並んでいる中で、一際品のある輝きを放っている魚を見たからである。
甘鯛であった。
その甘鯛を使ったフルコースがここではいただけるという。
甘鯛は高級魚である。
「グジでございます」と、京都の割烹でうやうやしく一つの料理が出されるが、この店では、最初から最後までグジなのであった。
初「グジフルコース」にコーフンしてきた。
京都でグジというと、若狭で一塩されて運ばれた甘鯛を指す。
しかし若狭では、500gアップの甘鯛からグジと呼べるのだという。
今回は、700gアップの、極みグジを料理していただいた。
しかも延縄などで捕ってから、数時間以内の甘鯛しかグジと呼べない。
キロ5000円ほどだそうである。
まずは、半身の「松笠焼」が出された
鱗をつけたままパリパリに焼いた塩焼きである。

身をむしって口に運ぶ。
食べる前、 身を口に入れた時の空気が、すでに甘い。
もう無我夢中で食べる。
最後に骨とエラが残った。
お湯をもらい、骨やアラにかけ、梅塩を振ってみた。
ああなんたることだろう。
滋味が豊かで、しみじみとおいしい。
「あはぁ」。
飲んだ瞬間、体の力が抜けていく滋味に、目を細める
旨味が深いだけはなく、体を労わる慈愛がある。
次に出されたのが、しゃぶしゃぶ出会った。
初ぐじしゃぶしゃぶである。
いやおそらく多くの人にとって、グジのしゃぶしゃぶは体験したことがないのに違いない。
そして今回いろいろいただいた料理の中で、このしゃぶしゃぶに最も驚かされた。
沸沸と湧く甘鯛の出汁に、切り身を横たえる。
待つこと30秒くらいだろうか。
うっすらと白くなったところを引き上げる。
半生より少し火が入った頃合いが一番いい。
しなやかという言葉は、この料理のためにあったのかもしれない。
「うっ」
噛んだ瞬間に、嗚咽を漏らす。
何か食べてはいけないような、禁断の食感があって、心が疼く。
気品のある甘みが舌をすうっと通り過ぎ、空気となって消えていく。
はかないような、怪しいうまみがそこにはあって、もう一枚、もう一枚と箸が伸びていくのだった。
続いて、味が濃くてミネラル感が強く、えぐみがない、「若狭牡蠣の酒蒸し」、
ひれのチップが香ばしい「唐揚げ」が出され、山椒と紫蘇を噛ませた「ぐじ寿司」が出された。
この「ぐじ寿司」が素晴らしい。
しゃぶしゃぶに続いて、唸った一皿である。
700g級の厚い身に塩し、昆布締めにしてから、皮を炙って柔らかくし、酢洗いした甘鯛を酢飯と合わせた料理だった。
ムチっとした体躯に歯が入る。
品のある甘味を滴らせながら甘鯛は崩れていき、酢飯と踊る。
色気が漂い、心が揺れる。
そんな寿司だった。
もう塩焼きだけではない。
様々な甘鯛の魅力に翻弄され、ますます惚れてしまうのであった。
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。