江戸前の気風の良さと粋を三国の魚に吹き込む

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江戸前の気風の良さと粋を三国の魚に吹き込む

地元のうまい魚を食べたきゃ、町寿司に限る。

高級店もいいけど、町に根差し、地元民に愛されている店にいってこそ、その土地を旅する意味がある。そう信じて疑わない僕は、三国の「寿司処福寿し」にやってきた。

ここで「きたまえにぎり」3000円を食べようってえ算段である。

「きたまえにぎり一人前ください」。

「はいよ。きたまえにぎりね」。

店主島田英彦さんは、快活な声で応えて、動き始めた。

「はいよ。アジとナマゲソ」。

調子いのいい口調で、最初の握りが出された。

アジは脂が綺麗で、舌を甘っみがスッと流れていく。

「はいよ。ふくらぎと赤いかね。ふくらぎはぶりの小さなやつね」。

ふくらぎは年の頃なら、16、7だろうか。ブリよりなめらかでいながら、脂が乗っている。

シコっと弾む赤いかも甘い。

「お次はバイ貝と紅ズワイね」

こちらが食べ終わった頃を見計らって、テンポよく出るのがいい。

特徴的なバイ貝の青い香りを噛みしめ、紅ズワイは、甘みが柔らかい。

続いて甘海老としめ鯖である。さすが福井、甘海老の身が締まって、だれていない。甘みも澄んでいシメサバは9月だったので、しつこくない脂が酢飯と馴染んでいた。

続いて白身魚が2種類、ほうぼうとヒラメである。

ほうぼうは、厚い身にしみじみとした甘みを宿しており、ひらめは妙に色っぽい。こちらも調子に乗ってきた。

最後が玉子焼きだが、昔ながらの甘い感じがたまらない。

ご主人は金沢から銀座七丁目の「すしどころ順」で修行し、福井に戻ってきたという。

「これちょっと食べてみて」そう言って出されたのが、福井梅とへしこのたたきである。ちょいと舐めれば、熟成して練れたねれた酸味と塩気に、へしこの旨みが相乗して、これは大至急酒である。

さらに「炙りへしこ寿司」ときた。

いやあ、こいつも酒なしではいられないねえ。

店は始められてもう60年になるという、「お若いですねえ」と、島田さんにいうと「三国は潮風が当たるから、肌がしゅっとなる。それに毎日海藻食べてるから、白髪にもならない」と言って笑われた。

大名巻2000円と書かれているのを見て「大名巻ってなんですか?」と聞くと「これはお値打ちだよ、元々は賄いから始まってね、いろんな魚の端きれを太巻きにしたん」。

「それはいい。ください!」

「はいよ」。

やがて出された太巻きには様々な具が入っている。

大口開けて頬張れば、様々な旨味や食感が現れて楽しいたらありゃしない。

「これどれくらいの種類が入ってんですか?」

「今日は10種類かな」。

「10種類!」

「はい。でも気分がいい時はもっと入れちゃうけどね」。

ご主人は早口で、ぽんぽん威勢よく話をされる。

でも「最近はイカが摂れなくて、刺身が出せない」と、嘆いておられた。

店名の前には江戸前とある。

どの魚にも一仕事がされている点は、確かに江戸前である。

だが言葉がイナセで、東京でもなかなかいない職人気質が感じられ、それこそが江戸前なのであった。


マッキー牧元
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。

お店の場所はこちら

福寿し

〒913-0046

福井県坂井市三国町北本町2丁目1-45

TEL:050-5593-1257

公式サイトはこちら