ふく旅

【ふく旅 酒トレイル】福井の酒蔵をめぐる「#01 福井市・美川酒造」自社田栽培の酒米、五百万石で描く“福井テロワール”

福井には個性豊かな酒蔵が点在しています。連載 「ふく旅 酒トレイル」 は、県外の方が「めぐって・味わって・買って帰れる」酒蔵を紹介するシリーズです。初回は福井市の 美川酒造(銘柄:舞美人)。ここは “水と米と土” を語る蔵です。自社栽培の酒米、五百万石を使用。取材してみて、田んぼと蔵を一体で捉える“テロワール日本酒”だと感じました。山廃・生酛由来の酸と濃醇な旨みある酒、そして室町時代からの製法「水酛」造りの酸味豊かな日本酒は、旅の食卓を華やかにしてくれます。

【ふく旅 酒トレイル】福井の酒蔵をめぐる「#01 福井市・美川酒造」自社田栽培の酒米、五百万石で描く“福井テロワール”

HIR☺︎

福井生まれ福井育ち生粋の福井人。写真歴は20年以上。嶺北奥越を中心に福井県内の風光明媚な名勝奇勝を撮り歩いてます。

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“一献”を目的に旅をする

  • 雪深い福井

旅の途中で、その土地の米と水で醸した酒を、地元の一皿と合わせて味わうと、旅はぐっと深まります。本シリーズでは、蔵の物語・味の個性・買える場所・合わせたい福井の料理まで、県外の方が観光のときに実際に訪れやすい情報をご紹介します!
今回はJR福井駅からもほど近い、福井市にある美川酒造さんにお邪魔して、社長兼杜氏の美川さんにお話を伺ってきました。

  • 蔵の近くは田園風景が広がります

美川さん教えてください!

美川酒造の成り立ちについて教えてください!
創業は 明治20年(1887年) です。蔵は福井市の「足羽川」近く、小稲津(こいなづ) 周辺にあり、田んぼに囲まれた米どころの景色がそのまま背景になっています。地名は田んぼ(稲)とすぐ横の足羽川の水運の港(津)が由来なんですよ。
福井駅から5kmも離れてないですが田園の美しい場所の中にありますね。ちょうど今(取材時8月前半)は稲穂も黄金に色づき、田園風景としても見ごろです!

まず“米と土”を語る— 自社栽培70%の五百万石

こちらの蔵の酒造りのポイントは何か、最初に教えてください!
核は「米」ですね。私たちは 自社で栽培した酒米、五百万石を使っています。蔵の周りに広がる田んぼで米を育て、すぐそばの蔵で仕込むという、いわば ドメーヌ的(田んぼと蔵を一体)なアプローチ を大切にしています。
ワインの世界では普通である、テロワール(米・土・人)を日本酒で表現した、ということですね!
そのとおりです。もちろん水も重要ですが、まず 「この土地の米を自分たちで育て使う」 ことから味が決まると考えています。
  • 酸味の強い夏にさっぱり飲める酒

舞美人は“酸味”で食を進める— 山廃・生酛と菩提酛(水酛)の考え方

舞美人は酸味が印象的なお酒として知られていますね。どのような考え方で造っているのか、教えてください!
造りの軸は 山廃(やまはい)と生酛(きもと) です。乳酸を添加しない無添加の酒母にこだわっています。そのうえで低温・長期の主発酵を行い、旨みと酸の骨格をしっかり作ります。結果として、食中で真価を発揮する酸味が生まれます。
そして「菩提酛(ぼだいもと/みずもと)も作られるようになったんですね!「三年かけて形にした」そうですがどのようなお酒でしょうか。
奈良の寺院に伝わる古式酛で、乳酸発酵を活かすのが特徴です。千葉や奈良の蔵にも学び、三年かけて現在の形に到達しました。仕込み条件にもよりますが、比較的短いスパン(目安20日前後)で、搾りたてのフレッシュな酸味を楽しめるところが魅力です。通常の日本酒は冬に仕込みますが、このお酒は、6、7、8、9月の四ヶ月だけ仕込み絞るので、在庫があれば12月くらいまで購入できますよ。

ペアリングは「発酵×発酵」と「酸の相乗効果」

県外の読者が旅の食卓や福井の食材で合わせるなら、どんな料理をおすすめしますか?
まずは、へしこの刺身スライスをおすすめします。発酵×発酵の相性は間違いありませんね!個人的には秋吉(有名な福井の焼き鳥屋)の親鶏(純けいと福井県民は呼びます)の串と合わせるのが好きですね!
純けいは脂の旨みが強いのでめちゃくちゃ合いそうです!他に意外性のある組み合わせがあれば教えてください!
実はトマトがよく合います。福井の名産の「越のルビー」は特に合うと思いますよ。酸同士の相乗効果 酒がすっと伸びます。オリーブオイルを少量かけたシンプルなサラダ、チーズ全般(里芋ジェラートを合わせる料理人もいます)など、イタリアン寄りの一皿とも相性が良いですね。酸味があるので通常の日本酒と合わせにくいコッテリした料理でも合いますよ。
脂っこい中華や唐揚げに日本酒は重いと感じる人もいます。そういう場合はどうすればよいでしょうか?
その場合は “日本酒ハイボール” を試してみてください。日本酒:炭酸=2:1 を目安にして薄めすぎないことがコツです。コクのある料理でもさらに飲みやすくなりますね!
  • 酸味と酸味が相乗効果の組み合わせ!

優しい福井の酒を、輪郭のあるおいしさへ

福井の日本酒の一般的な印象について、蔵元としてどう感じていますか。
軟水由来の「柔らかさと飲みやすさ」がベースにあります。そこに自社米のテロワールと山廃・生酛の酸 を重ねることで、良い意味での特徴の無さを、輪郭のあるおいしさに更新していきたいと考えています。
  • 木槽絞り

買える場所は?

旅行の帰りに買いたい場合、どこで手に入りますか?
蔵での購入・試飲(要事前確認)のほか、福井駅のくるふ福井内にある酒販店「みずもと」や、ハピリンにある土産店「かゞみや」、西武福井の地下、一部の道の駅などで取り扱いがある場合があります。
この田んぼの風景を県外の方に見てほしいですよね!
駅からこちらのすぐ近くにある県立図書館までは無料バスが出ています。福井にゆかりのある白河文字学の展示もある図書館で、そういう学びと共に田園風景を眺めながら近くにあるこちらの蔵まで来ていただき日本酒の試飲や購入をいただくのも乙ではないかなと思います。

杉玉の意味って?

以前から気になってたんですが、この杉玉が蔵の目印になってると思いますがどういう意味があるんでしょう?
蔵の入口に吊るす、杉玉は酒林(さかばやし)と本来言うんですよ。新酒の頃に作り、青々としており、時が経つにつれて色づいていきます。青い頃は新酒ができたんだな、色づくと熟成が進んだんだなと知らせる目印になっていたんですよ。
へーー!勉強になりました!

海外へ広がる“舞美人”

外国の方に毎美人は人気とか・・?海外での展開について教えてください。
出荷の約15%を海外(イタリア、フランス、香港など)に向けています。ワイン文化圏ほど 酸のある日本酒に反応が良く、飲み手との対話が生まれるのを感じます。“飲んで終わり”ではないお酒 を目指しています。

県外の読者へのメッセージ

県外から訪れる旅行客の方に向けて、最後に一言お願いします!
田んぼから蔵まで、福井の景色をそのまま瓶に詰めてお待ちしています。旅のテーブルでへしこ・炭火料理・旬の野菜と合わせていただき、“福井の一本” をぜひ楽しんでください!

旅に一本、テロワールを

美川酒造の一杯は、福井の田んぼと蔵の空気がそのまま入った日本酒でした。自社田栽培70%という“水と米と土”の物語に、山廃・生酛の酸が輪郭を与えます。福井に来たら、蔵でテロワールを体験し、駅前でお土産を一本。そんな旅のルーティンを、次の週末から始めてみませんか?


用語ミニ辞典

• 杜氏(とうじ/とじ):酒造り全体を統括する責任者です。

• 山廃・生酛:蔵の微生物の力を活かす伝統的な酒母で、酸と旨みが出やすい製法です。

• 菩提酛(ぼだいもと/みずもと):奈良の寺院由来の古式酛で、乳酸発酵を活かして酸を得ます。

• 杉玉(酒林):新酒の季節に青い杉葉で作る球体で、熟成とともに色が変わる“蔵の目印”です。


HIR☺︎

福井生まれ福井育ち生粋の福井人。写真歴は20年以上。嶺北奥越を中心に福井県内の風光明媚な名勝奇勝を撮り歩いてます。

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